#和紙とミツマタ~心で和紙を漉く 樫西和紙工房~
人と自然の調和から生まれる手漉き和紙は、強靭でありながら、環境や人には優しい。
あらゆることにデータ化が進む現代において、手で創る和紙にはコンピューターでは生み出せない五感に訴えかける美しい質感があります。
樫西を元気にするためにも
手漉き和紙を創り続けたい
岡山県真庭市の中間部に位置する樫西地区。旭川の支流、豊かな水源に恵まれた余川のほとりにある「樫西和紙工房」では伝統的な和紙はもちろん、染料を用いた優美な「創作染和紙」もつくられています。
紙漉き職人の小川秀雄さんと、創作染和紙デザイナーの星野詩穂さんに、和紙づくりに対する熱き想いを語っていただきました。
小川さんが和紙に携わるようになったきっかけ
小川さん:かつて日本では手漉き和紙が使われていましたが、明治時代に大量生産ができる安価な洋紙が輸入されてからは、生産に手間のかかる和紙の需要が大きく減退しています。ミツマタ栽培が盛んな真庭市樫西地区も、かつては紙幣製造に使う「局納ミツマタ」で日本一の生産量を誇ったものでした。全盛期には樫西地区を中心として25ヘクタールあった栽培地も、現在は1ヘクタールまで減少してしまっています。
“ミツマタを使って何か新しい地域の特産品はできないだろうか”。そこで地域活性化の一環として、目をつけられたのが和紙づくりです。私は同じ岡山県の美作地方で古くから生産されてきた高級和紙「横野和紙(津山箔合紙)」の和紙職人に弟子入りし、和紙づくりの技術を習得しました。1986年(昭和62年)12月に「樫西和紙工房」を設立、ここを拠点として地域の特産三椏(ミツマタ)を活かした和紙づくりに力を入れるようになりました。
自然と向き合い、一枚一枚手作業で漉く
小川さん:手漉き和紙の作業は、ミツマタを蒸して樹皮をはいだ黒皮を乾燥させる工程から始まります。
乾燥した黒皮を釜ゆでして、清流からひいた冷水にさらして不純物「あく」を取り除いてから、刃物でこそぎ、白皮だけにする作業を行います。塵取りをした白皮を川水を使った「漉槽」で専用ののりと混ぜて、ようやく紙漉きの作業に取り掛かります。簾だれをはめ込んだ簾桁で、紙液をすくいとり、前後左右にゆり動かしながら、繊維を均一に簾にからませます。漉きあげて積み重ねた和紙に重しを乗せ、軽く脱水して、その後ジャッキにより本格的脱水を行います。 急に圧力をかけるとつぶれてしまうので、手動ジャッキを使って手加減しながら慎重に作業を行います。脱水した紙を一枚ずつはぎとって鉄板に貼り付けて乾燥させ、樫西和紙が完成します。
真冬、氷のように冷たい水で漉く理由
星野さん:「冬場がよし」とされるのは、原料の繊維が夏場の暑い時期は傷みやすいからです。また水の温度が冷たくなければ、糊がきかないこともあり、氷のように冷たい流水を使用する冬の時期の方がキレイな紙を漉くことができるのです。
小川さん:1つ1つすべてが手作業の和紙。同じように手漉きしたつもりでも、原料や水の状態、温度のちょっとした変化で計算通りにできないこともあります。そこが手漉き和紙の難しさでもあり、面白さでもあります。同じものが2つとできない手漉き和紙は1枚1枚が味わい深く、またミツマタをはじめ、手漉きに使用する水も自然のものという、非常に自然と関わりの深い芸術作品でもあると思います。
なかでも樫西和紙は、普通の和紙と違い強度があります。上質で手触りがよく、文字を書きやすいことが特徴で、書道家の方やちぎり絵の創作アーティストなど、紙にこだわりをもつお客様に好評なんですよ。
独自の染め、創作和紙の可能性
小川さん:平成14年頃からは、絵を描いたように和紙を染める創作染和紙の制作をスタートしています。創作染和紙は、千葉県から真庭市に移住してきた元舞踊家の星野詩穂さんが考案しました。デザイン性の高い作品に注目が集まり、「結の香」さんのギフト用パッケージをはじめ、インテリアのタペストリーなど装飾品としても高い評価をいただいています。今後も竹と和紙を組み合わせたり、お客様からのオーダーで和紙に砂鉄を混ぜ込んだり、新たなものづくりにも取り組んでいこうと考えています。
星野さん:私はずっと現代舞踊家としての活動を続けていたのですが、年齢を重ねたこともあり、カラダではない新たな表現をめざそうと和紙の世界へ飛び込みました。何か私らしい表現を…と、チャレンジした創作染和紙ですが、技術が完成するまで3年の月日を費やしました。
創作染和紙は、紙を漉いて水分が残った状態で染めていきます。乾燥するとノリで固まってしまい、染めが入らないからです。湿った紙の上に染めていくことで染めが浸透して独特なデザインができあがります。何色も組み合わせる場合は入れた順に色が出るため、後で違う色を入れても調整ができませんし、紙が湿っている状態と乾燥して出来上がった状態でも見た目がまったく違います。だから色の組み合わせや出来上がりの誤差をあらかじめ予測をして染めていかなければならないのです。濡れた状態で描くため、にじみも強く、輪郭を鮮明に表現することが難しいですね。いまだに試行錯誤の連続ですよ(笑)。
小川さん:逆にその鮮明ではない輪郭が柔らかで温かみがあると、様々なメディアで取り上げていただきました。
星野さん:とてもありがたく思っています。全国各地で個展の開催や展覧会への出展を行っており、2003 年ロンドンで行われた日本の伝統工芸展にも参加しました。今はコロナの影響があり、積極的に動けていませんが、今後も情報発信は行っていきたいと考えています。
小川さん:日本の伝統工芸である手漉き和紙は、ユネスコの無形文化遺産にも指定され、その保存・継承が世界から求められています。確かに和紙がなくても暮らしに困ることはありませんが、日本の和紙は暮らしに温かさや豊かさをもたらしてくれるものだと自負しています。ユネスコに指定されたことを喜んでいるだけではなく、未来に向けて技術を守り、継承していくことが大事です。日本が誇る手漉き和紙の技術を伝え、真庭の美しい水や空気、ミツマタなど自然との関わりを大切にしたいから、これからも私たちは手漉きにこだわって、創り続けたいと思います。
小川さんの独り言ここにもぜひ注目してほしい!
-真庭市きらきら計画実行委員会
平成30年に真庭市が「SDGs未来都市」に選定されたのを機に、真庭市樫邑地区では地域のために活動を行ってきたさまざまな団体や人が集まって「きらきら計画実行委員会」をつくりました。
樫邑をより一つに、地域全体で全世代が関わり合いながら、樫邑をもっと住み続けられる地域にすることを目的とした実行委員会で、私は委員会の代表として活動のとりまとめを行っています。
委員会主催の竹馬大会や凧揚げ大会ほか、2019年から樫西和紙の原料となるミツマタによって地域を盛り上げようと「日本一の三椏(みつまた)の郷を再興したい!」というクラウドファンディングに挑戦。ミツマタを使った和紙や化粧品など27種を返礼品に、多くの方のご協力を得て、ミツマタの植栽・管理、体験学習、イベント開催を行っています。
https://faavo.jp/okayama/project/3731
http://www7.plala.or.jp/kashinishi-washi/Crowdfunding/index.html
#美容のプロから~有名コスメブランド出身の美容スペシャリストも絶賛!~